第55章

杉山海斗は、倉持寧音に絵の才能があることを前から知っていた。だが、彼女が筆を握るところを、こんなふうに間近で見るのは久しぶりだった。

いま、画面に視線を落とし、息を詰めるように集中している寧音を見ているだけで、心臓がやけに速く打つ。

矛盾している。

仕事をしている寧音が、たまらなく好きだ。何かに没頭している横顔は眩しくて、手が届かないほど綺麗で――目を離せない。

けれど同時に、彼女が描くこと自体が怖かった。

寧音が本気で自分の道に打ち込めば、いずれ誰もが見上げる画家になる。

そうなったら、寧音が自分にくれる時間はもっと減る。

そして、彼女の周りには、もっと優秀な人間が集まるだろ...

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