第2章
亜理亜視点
私を目覚めさせたのは波の音だった。アラームじゃない。ホテルの窓の外の交通騒音でもない。波の音。
目を開けると、青い空が見えた。頭上ではヤシの木が揺れている。顔に当たる太陽の光は、眩しすぎるし、暑すぎる。
私は砂の上に横たわっていた。湿った髪と昨日着ていた服に、白い砂がまとわりついている。
何なのよ、これ。
がばっと起き上がると、頭がぐらついた。一瞬、世界が傾く。周りを見渡す。砂浜。ココナッツの木。鬱蒼としたジャングル。見渡す限りの海。建物も、人も、花崎の豪邸もない。
その時、彼が目に入った。
十メートルほど離れた砂の上に、大和がうつ伏せで伸びていた。這う途中で気を失ったかのように片腕を突き出している。彼はうめき声を上げ、ゆっくりと身を起こすと、こめかみをさすった。
私たちはまったく同じタイミングで起き上がった。視線が交錯する。
「ここ、どこ!?」二人の叫び声が重なった。
お互いの声を聞いた衝撃で、二人とも凍りつく。
大和が跳び上がった。「亜理亜!? どうなってんだよ!?」
私も立ち上がり、ジーンズについた砂を払い落とす。「私に聞かないでよ! ここで目が覚めただけなんだから!」
彼は首をぐるりと回し、悪夢としか思えない南国の楽園を見渡した。三百六十度、見回している。
「おーい!?」大和は何もない空間に向かって叫んだ。「誰かいないのか!? 冗談なら笑えないぞ!」
私は両手をメガホンのように口に当てる。「わかったわよ! 最高のドッキリね! もう帰してくれない!?」
沈黙。聞こえるのは、打ち寄せる波の音と、ジャングルから聞こえる鳥の鳴き声だけ。
太陽はすでに高く昇っている。朝の六時か七時だろうか。水はあまりに透明で、遠くの珊瑚礁まで見える。私たちの背後には、密生した手つかずのジャングルが広がっている。ここはリゾート島なんかじゃない。くそ無人島だ。
ネットのどこかでは、視聴者たちが熱狂している。コメントが殺到する。
『うおおおお、マジでやりやがった』
『これヤバすぎだろ(www)』
『同時に目覚ますの草😂』
『大和の寝癖、いい味出してる』
大和が屈み込み、何かを拾い上げた。「待て。何かあるぞ」
私は歩み寄る。私たちの近くに、空の防水バックパックが二つ、砂の上に置かれていた。
「何これ?」私は自分の分を掴み、ひっくり返した。
大和が彼のバッグから折りたたまれた防水紙を取り出す。私も自分のバッグから同じものを見つけた。同じサイズ、同じ素材。
彼はそれを広げ、信じられないといった平板な声で読み上げ始めた。
「『失われた楽園』へようこそ。あなた方は究極のサバイバル体験に選ばれました。専属のスタイリストチームやアシスタント、そしてWi-Fiなしで生き抜けることを証明してください。七日後に船が迎えに来ます。幸運を。追伸 シーフードがお好きだといいのですが。制作より」
私の頭はショートした。「薬でも盛られたの!? こんなの合法なわけないでしょ!?」
大和がその紙を拳の中でくしゃくしゃに握りつぶす。「ふざけるな!冗談だろ。そうだろ!?」
怒りがこみ上げてきた。昨夜のことを思い出す。あの心地よい花崎の部屋のベッドで横になっていた。突然、ありえないほどの眠気に襲われた。ランプを消す間もなく、まぶたが重くなっていった。
薬を盛られたんだ。本当に薬を盛られて、無人島に捨てられたんだ。
「訴えてやる」私は歯を食いしばりながら言った。「ネットフリックスも、プロデューサーも、全員」
「俺が先だ」大和の指の関節は、握りしめたメモのせいで白くなっていた。「戻ったらすぐに弁護士に電話してやる」
その時、はっとした。「待って。私たち、携帯持ってない」
「クソッ」
私たちは何もないビーチに立ち、役立たずのメモを握りしめている。現実がじわじわと染み込んできた。
「七日間?」私は静かに尋ねた。
大和が私を見る。彼の青い瞳に海が映っていた。「七日間だ」
大和が突然、背筋を伸ばした。「待てよ。カメラがあるはずだ。これはテレビ番組なんだから」
私は眉をひそめる。「だから?」
「だからカメラを見つけて、この狂った実験をやめて帰せって叫ぶんだ」
私は腕を組む。「それで連中が『はい、すみません』って言って船を寄こすと思う?」
彼はすでにビーチや木々、岩をくまなく見回している。「やってみる価値はある」
大和は高いココナッツの木を見つけると、そこへ一直線に向かった。「あそこに登ればもっとよく見えるはずだ」
「あれに登る気?」
「なんでダメなんだ?」彼は木の幹を掴み、体を持ち上げ始めた。滑らかな樹皮でブーツが滑る。二メートルほど登ったところで握力が尽き、彼は滑り落ちて尻から地面に激突した。
思わず笑ってしまった。
彼は砂の上から私を睨みつける。「助かるよ」
「気をつけてよ! 私、心肺蘇生法なんて知らないからね!」
彼は再び挑戦し、うめき声を上げる。「そりゃ心強いな!」
「言っとくだけよ!」
大和が木登りを諦めた後、私たちは二十分ほどかけて岩をひっくり返したり、木の枝に隠しカメラがないか調べたりした。私が大きな石を持ち上げると、カニが這い出してきた。私は悲鳴を上げて飛びのいた。
大和がにやりと笑う。「カニが怖いのか?」
「不意打ちだったのよ!」顔が熱くなる。
「そりゃどうだか」
それから大和はまた名案を思いついた。彼は太い枝を拾い、砂の上を引きずって巨大な文字を刻み始めた。S-O-S。
私は腕を組んで、それを見守る。「人工衛星が見てると思う? 映画じゃないんだから」
彼は枝を引きずり続ける。「お前はもっといい案があるのかよ!?」
「ええ、あるわよ。現実を受け入れて、どうやって生き延びるか考えるの」
大和は立ち止まって私を見た。「お前、ノリが悪いな」
「私は現実的なだけよ」
そう言いながらも、私の心の中で何かが和らいだ。少なくとも彼は挑戦している。少なくとも何か行動している。
私ももう少し協力的になるべきかもしれない。
オンラインでは、視聴者がこの状況に夢中だ。
『虚空に向かって叫ぶ大和、ウケるwww』
『お二人さん、カメラはそこら中にあるって』
『まだドッキリだと思ってるの泣ける😭』
大和が額の汗を拭った。「ジャングルを調べてくる。真水があるかもしれない」
私はためらった。「一緒に行動すべきよ」
彼はにやりと笑う。「俺のことが心配か?」
「あなたが迷子になって、私が探しに行かなきゃいけなくなるのが心配なの」
「そりゃもっともだ。行くぞ」
私たちはジャングルの端にある密生した植物をかき分けて進んだ。湿気と熱気で、空気は土と腐った葉の匂いで重い。大和が先を歩き、巨大なシダや低く垂れ下がった蔓を押し分けていく。
彼が道を塞いでいる大きな葉に手を伸ばした。
その時、それが見えた。
鮮やかな緑色のバンブーバイパーが、とぐろを巻いて葉の陰に隠れている。口を開き、牙をむき出しにして、まさに飛びかかろうとしていた。大和の手は、ほんの数センチ先にある。
時間がゆっくりと流れる。
「大和!」
考えるより先に、体が動いていた。私は彼の腕を掴み、力任せに後ろへ引き倒した。私たちはバランスを崩し、手足を絡ませながら地面に倒れ込んだ。私は彼の上に乗り上げる形で、両手を彼の頭の両脇についていた。
二人とも、荒い息をついている。蛇はカサカサという音を立てて、下草の中へ消えていった。
「マジかよ」大和が息を吐いた。「危なかった」
「あの蛇、すごく本物っぽかったわ」心臓が肋骨を激しく叩く。
「ああ」彼の声は低く、ほとんど囁き声だった。
私たちはどれほど近い距離にいるのかに気づく。彼の顔がすぐそこにある。あの青い瞳が、私をじっと見つめている。私の下で、彼の胸が上下するのが感じられる。私たちの間の熱は、南国の太陽とは何の関係もなかった。
大和は思う『彼女が俺を救った。ためらいもなく。五年経っても、彼女はまだ……』
私は慌てて彼の上から離れ、服についた土を払った。「大丈夫?」
彼はゆっくりと起き上がる。「君のおかげでな」
私たちは数秒間、見つめ合った。二人の間の空気が、何か変わった。
「ビーチに戻った方がいいわ」私はその瞬間を破るように言った。
大和は頷く。「そうだな」
ネットのコメントは爆発的に増えた。
『あのヘビ、役者としてギャラが安すぎる』
『亜理亜の反射神経やば👀』
『彼に飛び乗ったとこ最高』
『大和、初日から死にかけた💀』
ビーチに戻り、私たちは黙って座っていた。蛇の一件で、すべてが現実味を帯びてきた。私たちは本当にここに閉じ込められている。七日間。何もない状態で。
「それで」大和がようやく口を開いた。「こういうことになったわけだ」
「みたいね」
彼は私の方を向き、真剣な表情を浮かべた。「協力する必要がある。俺たちの間に色々あったのはわかってる。でもここでは、お互いしかいないんだ」
私は彼を見つめる。冗談も、皮肉もない。ただ、あの青い瞳には誠実さだけがあった。
私はゆっくりと頷いた。「いいわ。でも、あなたからの命令は受けないから」
彼は両手を挙げる。「夢にも思いませんよ、お姫様」
私は呆れて目を転がすが、唇が微かに震えた。「そう呼ばないで」
「何です、お姫様? それとも女王陛下? どちらがお好みで?」
「大和」でも、私の声に棘はなかった。
彼はにやりと笑う。「それだ。俺の名前を、殺したいって顔で呼ばなかったのは初めてだ」
彼の言う通りだ。私たちの間に何があったにせよ、胸の中にどんな傷が残っていようと、今この瞬間、私たちにはお互いしかいない。七日間。私ならできる。私たちならできる。
私はくしゃくしゃになったメモを拾い上げた。「わかったわ。優先順位を決めましょう。まず何が必要?」
「水。避難所。火。食料。その順番だ」
私は驚いて彼を見た。「あなた、サバイバルの基礎知識なんて知ってたの?」
彼は肩をすくめる。「映画でやったことがある。トレーニングコースもいくつか受けたんだ」
「へえ。案外、役立たずってわけでもないのね」
「水原亜理亜からのお褒めの言葉とは、光栄だな」
私たちは作業を分担した。大和が避難所のための材料を集め始め、私は再びジャングルの端へ、今度はもっと慎重に、ココナッツや何か食べられそうなものを探しに向かった。幼い頃、祖母に植物について教わった。残りはガールスカウトで学んだ。
私がココナッツを両腕いっぱいに抱えて戻ってくると、大和の作った片流れの小屋は二度目の崩壊を起こしていた。
「それ、何回目?」思わず笑ってしまう。
彼は砂の上に座り込み、打ちひしがれた様子だった。「二回だ。映画ではもっと簡単そうに見えたんだが」
「ほら、手伝うわ」私はココナッツを置いた。「まず土台を固定しないと」
「どうしてそんなこと……」
「ガールスカウトよ。女優になるって決める前の話」
大和は笑った。その笑い声は心からのものに聞こえた。「ガールスカウトの亜理亜か。今日は色々学ぶことが多いな」
私たちは一緒に作業し、その動きはゆっくりとリズムを見つけていった。私が彼に枝で骨組みを正しく組む方法や、屋根のためにヤシの葉を編む方法を番組する。時々、同じ木片に手を伸ばして、私たちの手が触れ合う。どちらもそのことには触れなかった。
日没までに、私たちはまともな避難所を完成させた。粗末ではあるが、風はしのげるだろう。
大和は一歩下がり、私たちの仕事ぶりを眺めた。「初日にしては悪くない」
「まだ生きてるわ」私は言った。「それだけでも上出来よ」
彼は石を使ってココナッツの一つを割り、私に手渡した。「レディファーストだ」
私はそれを受け取る。指先が一瞬触れた。「悪くないわね」
「ないよりはマシだ」彼も同意し、私に続いて一口飲んだ。
私たちは手作りの避難所の前に座り、太陽が地平線に向かって沈んでいくのを眺めた。空はオレンジとピンクに染まり、水面に反射している。大和が私を見る。その表情からは何も読み取れない。
「ありがとう」彼は静かに言った。「あの蛇から俺を引っ張ってくれて」
私は肩をすくめたが、声は意図したよりも柔らかくなってしまった。「まだ礼を言うのは早いわ。あと六日もあるんだから」
「あと六日か」彼の言い方には重みがあった。長すぎると同時に、十分ではないかのように。
大和と過ごす、あと六日。私が愛した男。私が捨てた男。二度とこんな形で向き合うことになるとは思っていなかった男。
私は、この状況をどうすればいいのだろう?
目の前には、どこまでも青い海が広がっている。
私たちは近い距離にいる。でも、近すぎない。まるで、境界線を試しているかのように。
