第8章

化粧室から出ると、聞き覚えのある声に呼び止められた。

「友佳子」

振り返ると、廊下の壁に寄りかかった伊藤尚久が、シャンパンを半分ほど入れたグラスを片手に、目を細めて私を見つめていた。

まさか彼と再会するなんて、思いもしなかった。

伊藤尚久の視線は私の新しい髪型からつま先までをなめるように見下ろし、最後に私の顔で止まった。

「髪型、変えたんだな。化粧も」

と、聞き慣れた値踏みするような声で彼は言った。

目の下に隈ができている。ここ数日、まともに眠れていないようだ。

「どうしてここに?」

私は平静を装って尋ねた。

「ここはVIPラウンジですよ」

伊藤尚久は手...

ログインして続きを読む