第43章 心臓の鼓動

藤井白悠の登場は、オーディション会場の空気を一瞬にして変質させた。

他の女たちのように、その美貌に넋を抜かれてたまるか。佐藤橋は意識して視線を逸らし、周囲を見回した。途端に、皆そわそわと自分のメイクや服装をチェックし始めている。普段は澄まし顔の一線級の女優たちでさえ、この時ばかりは隠しきれない緊張を滲ませていた。

(大げさな……)

佐藤は心の中で毒づく。たかが男が一人現れただけじゃない。何をそんなに騒いでいるのか。しかし、その強がりが虚しいものであることを、自分自身がいちばんよくわかっていた。

村上監督が慌てたように藤井白悠のもとへ駆け寄り、二言三言、小声で言葉を交わしている。何を話...

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