第52章 誘惑

佐藤は、滑らかな黒の舞台衣装の裾を軽く引いた。ヒップラインをこれでもかと誇張するタイトなシルエット。腰からはプリーツスカートが広がり、上半身は片方の白い肩を大胆に晒すワンショルダーデザインだ。冷たい輝きを放つ水晶と、柔らかなシフォンが幾重にも重なり、肩から腰へと斜めに流れている。

今日に限って、この衣装がひどく扇情的に思える。締め付けられた臀部が、まるで誰かの無遠慮な指に絶えず撫でられているようで、落ち着かない。

傍らで、西村がこちらのシャツのボタンを直している。こんなフォーマルな彼を見るのは初めてだった。いつもはゆったりとしたスポーツウェアに身を包み、快適さだけを求めているような...

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