第53章 彼は帰国した

撮影が終わると、佐藤は荷物をひっつかむようにまとめ、逃げるようにスタジオを後にした。すでに何事もなかったかのように身支度を整えている西村に、声をかけることなどできなかった。

顔が熱い。早足で廊下を進み、あっという間に本社の1階ロビーにたどり着く。そこでようやく、ここが自分が住むマンションではないことに気づき、再びエレベーターへと踵を返した。

ああ、もう。歩きすぎて頭がついていかなくなっちゃったのかな……。

バッグの中で携帯が二度震えた。メッセージは、フロントに自分宛の小包が届いているという知らせだった。佐藤は訝しみながらも、また本社のロビーに戻り、社員番号を伝えてサインをすると、...

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