第59章 強力な男

煙突から抱き下ろしてくれたのは、西村だった。

男の腕は力強く、しっかりと支えられると、自分がまるで羽になったかのような錯覚に陥る。佐藤はそんな感覚を覚えていた。軽々と抱き上げられ、西村のコートにくるまれると、まるでジャージ姿の羽毛のようだった。

「どうだ?」

藤井は地面に散らばる砕けた石や瓦礫の中から自分のコートを拾い上げ、再び羽織った。髪は乱れ、全身が黒い煤で汚れているというのに、その美しい風格は微塵も損なわれていない。まるで、こんなことはとっくに慣れっこだと言わんばかりだった。

「外にはまだ警察がいる。地下駐車場へ行こう」

西村は簡潔に答えた。佐藤の靴を持ってきたが、ハ...

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