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第四章 ハング

「一体どういうことだ、ちょっとした手違いがあった、だと?」

怒りに満ちた声が唸るのが聞こえた。

目を開けると、そこは冷たくて暗い部屋だった。夢に違いない。ついさっきまで、シカゴ行きの飛行機に乗っていたはずだ。私の中でシアが身じろぎ、目を覚ませと促してくるのを感じる。身を起こそうとするけれど、どうしてもできない。頭がひどく重くて、全身に力が入らないのだ。

「俺の目当ての奴は今どこにいるんだ!」さっきと同じ、雷鳴のような唸り声が問い詰める。間違いなくアルファの狼から発せられている声だ。その声に宿る力を肌で感じる。やけにリアルな夢だこと。

「アルファ、とにかく中に入ってあいつを見てください。ラルー家の者に違いありません。あの爺さんにそっくりですから」別の声が言うのが聞こえる。

「中に狼の匂いはしないぞ。ただの人間じゃねえか、ストライカー。どうしてそれに気づかなかった!」

『シア、どうなってるの? 私、どうしちゃったの?』狼である自分と繋がろうと試みるが、シアの存在をほとんど感じられない。彼女も弱っている。周りのエレメントを探ろうとするけれど、繋がることができない。瞬きすると、視界がぐにゃりと歪む。薬でも盛られたんだろうか? もしかして、あの客室乗務員……確かローラとかいう名前だったか……彼女が私の食事に何か入れた? 彼女、同じ便に乗っていたデルタと知り合いのようだったし。これはただの夢で、私はまだ機内で眠っているだけなんだと自分に言い聞かせる。

扉が開き、強烈なアルファのオーラが部屋に流れ込んできた。部屋にいるもう一人の狼に霞む視線を集中させようとすると、私の中でシアがキャンと鳴いた。数回深呼吸をして、もう一度身を起こそうとした。視線の先にいたのは、空港で『ラルー・エンタープライズ』と書かれたサインを持っていた、あの赤毛の運転手だった。

「目が覚めたぞ」と彼が言った。そこで私は、これが夢ではないと悟った。彼はどうにかして私を捕らえ、ここに連れてきたのだ。でも、ここはどこ? それに、どうして抵抗した記憶がないんだろう?

彼の隣に立つ狼に目を移す。背がすごく高くて、とんでもなくセクシーだった。自然な癖のあるダークブラウンのウェーブヘアに、ライトブラウンの瞳。角張った顎を持ち、危険な香りのする、どこか野性的な見た目をしている。突き刺すような視線が私の隅々までを舐めるように見ているのを感じ、心臓が速鐘を打ち始める。落ち着け、と自分に言い聞かせる。エヴィー茶を飲んだから、彼らに匂いを嗅ぎつけられることはないはず。それに、彼は私のことを人間だと思っている、でしょう?

「名前は?」彼のハスキーな声が響く。その整った顔に焦点を合わせようとするが、視界はぐるぐると回り続ける。

「ここ……どこ……?」なんとかそう尋ねると、頭が真っ二つに割れたような感覚がした。

「ここに書いてある。名前はカシオペア・ラルー・セオドラスだ」赤毛の男が私のパスポートを掲げながら言った。

体調が戻ったら、こいつのケツを蹴り上げてやろうと心に誓った。

「あなたは、誰?」感覚を圧倒する、雨上がりの土のような匂いを放つアルファに尋ねた。雨上がりの匂い。私、この匂い、大好き。一瞬目を閉じると、冷たく硬いベンチの上で体がぐったりと崩れ落ちるのを感じた。もうエネルギーは残っていなかった。私はそのまま闇に身を委ねた。

静寂を破って、牢の扉がガチャリと開く音がした。私は目を開けた。一人の女狼が食事の載った皿を持って入ってきた。私は身を起こし、彼女を見つめた。私より数歳年上だろうか。長いブラウンの髪をポニーテールにまとめ、流した前髪と、黒い瞳によく映えるエキゾチックな形の眉が印象的だった。彼女は階級持ちの狼――デルタだった。

「おはようございます。こんな暗い穴蔵で朝食をお持ちすることになってしまって、申し訳ありません。でも、すぐにここから出してさしあげますから。ほんの少し、人違いがあっただけだと思いますので」と、彼女は言った。

「いつも間違って人を誘拐して、ご親切に檻まで用意してるわけ?」私は立ち上がって独房の反対側の隅へ歩きながら、皮肉を込めて言い返した。自分の力がどれくらい戻っているかを探りながら、私の狼とエレメントをここまで弱らせるために、いったいどんな薬を使われたのかと思いを巡らせる。

「誰もあなたを傷つけたりはしません。約束します。ハムとチーズのオムレツに、トーストとコーヒーをお持ちしました」

「薬でも盛ってあるんじゃないの。誰かに薬を盛られたのは確かなんだから」薬の効果が薄れてきているのは感じたが、まだシーアを顕在化させてここを脱出できるほどの力はなかった。

「クリス、下がっていい」昨日聞いた、あのハスキーなアルファの声がした。そして、彼が入ってきた。

『なんて……神々しいほどの男!』ギリシャ出身の私は、魅力的な狼なら見慣れているつもりだったけれど、このアルファは、もはやオリンポスの神といった方が近かった。

「はい、ボス」クリスと呼ばれた狼が応えた。彼女がこのアルファのデルタであることは確信できた。デルタの番の雌ではなく、デルタそのものだ。彼女は階級持ちの狼で、私にはそれが感じ取れた。多くのアルファは階級に雌が入ることを決して認めない。このアルファには興味をそそられた。狼たちの真ん中で気配を消しているのは、少し奇妙な気分だった。姿は見えないまま彼らの中を歩き、その匂いも気配も感じ取ることができるのだ。

独房にアルファと二人きりになると、再び彼の匂いが鼻をついた。見上げると、金色の斑点が散った茶色の瞳と目が合う。縁取るまつ毛は美しく、そして濃かった。シーアがまたキャンキャンと鳴くのが聞こえ、胃のあたりがぞわぞわするのを抑えられない。心臓が早鐘を打ち始め、口の中がからからに乾いていく。何が起きているのかを悟り、私はよろめきながら後ずさった。

アルファは片眉を吊り上げると、自信に満ちた足取りでこちらへ近づいてきた。その手には椅子が一つ握られている。

「座れ。いくつか質問がある」彼は椅子を床に落とすように置いた。シーアが表に出ようとするのを必死に抑えつけ、私はこみ上げるパニックと戦わなければならなかった。

「すぐに私を解放しなさい。何も話すことはないわ。何も知らないのだから」私は自分の中のアルファを抑えつけながら、毅然とした声で言った。少しやりすぎだったかもしれない。彼から放たれる力と危険なオーラは間違えようもないものだったが、しかし、それが私に影響を及ぼすことはなかった。

彼の瞳が翳り、内なる狼が表面に浮かび上がるのが見えた。彼は混乱した様子で、鼻孔をひくつかせている。私の匂いを嗅ごうとしているのだ。だが、私が匂いを隠しているのだから、彼にそれができるはずはなかった。彼の狼は私の狼を感知しているのかもしれないが、彼の理性は、私が人間だと告げているのだろう。

狼は匂いで運命の番を見つけ出すという。番にとって、その匂いは唯一無二で、多幸感をもたらすものらしい。触れ合えば、もう半分の自分と繋がることで、体にチリチリとした火花が走る。そして見つめ合えば、魂が出会う。今のところ、私たちは触れ合っていないし、彼は私の匂いを嗅ぐこともできない。ただ見つめ合っただけ。きっと彼の狼は、ひどく混乱しているに違いない。

「お前が何者かは分かっている」彼が嘲るように言うと、私は喉の奥で息を呑んだ。

「わかるの?」彼は私を狼として、それとも彼のメイトとして認識しているのだろうか。メイトという言葉が頭をよぎった途端、頭の中でシアが遠吠えをあげた。この野性的で荒々しいアルファこそが自分のメイトだと、彼女にはわかっていた。でも、私としては彼がなぜ私を拉致したのか、そしてなぜラルー家に関心を持っているのかを知る必要があった。

「おまえは魔女だ。これは何かの呪文に違いない」彼の声には毒がこもっていた。

「魔女ですって? アメリカではもうハロウィンなのかしら?」内なる狼を抑えようと苦闘しながら髪をかき上げる彼を見て、私はくすくす笑いをこらえようとした。

「どうにも辻褄が合わん」彼はほとんど唸るように言い、首筋のセクシーな筋がぴくりと動いた。

「怪我をする前に座ったほうがいいんじゃないかしら」面白がりながら言うと、彼の目に怒りが燃えているのが見えた。

「それは素晴らしいご提案だ、カシオペア女王陛下!」彼は悪魔のような笑みを浮かべて言った。彼の目が虚ろになるのが見え、誰かとマインドリンクしているのだとわかった。私はごく普通の人間であるかのように振る舞おうと努めた。どうして私が彼のメイトだなんてことがあり得るの? 私の生活は、地球の裏側にあるというのに。

「ここはどこ? 私に何を望んでいるの?」私は問い詰めた。

「入れ、ストライカー」彼が言うと、空港で私を拾った赤毛の男――ストライカーが、ロープを手にドアから入ってきた。

「お座りください、陛下」彼は私に向かって忍び寄ってきた。私は彼との接触を避けようと後ずさった。一度でも触れれば、彼は間違いなくメイトの絆が放つ火花を感じるはず。一度でも触れれば、私もきっと、愚かな決断を下して彼に飛びかかってしまうに違いない。彼の体が前に傾き、私は抗えず椅子に倒れ込んだ。女神様、なんて抗いがたい、いい香りなの。思考がぐるぐるして止まらない。内なる狼が、早く手を伸ばして彼に触れろと私に向かって遠吠えしている。

ストライカーが椅子の後ろに回り込み、素早く私の胴体にロープを巻き付け、体全体と腕を椅子に縛り付けた。それから彼は私の脚に移り、足首を椅子の木製の脚に結びつけた。見上げると、私のメイトがそこにいた。彼はその大きな、筋肉質な胸の前で腕を組み、じっとこちらを見下ろしていた。彼は何か悪戯でも考えているかのように、首をこてんと傾げた。

私はストライカーが残りのロープを手に取り、天井を横切る大きな金属の梁に放り投げるのを見ていた。彼が何をしようとしているのかを悟り、私はロープに抗ってもがいた。本気じゃないでしょう! 子供の頃、ギリシャにいる従兄弟たちによくからかわれて、こうしてやると脅されたものだけど、まさかそれが本当に起こるなんて。

「ストライカー、カシオペア女王の物語を聞いたことがあるか?」アルファはそう言いながらロープを引いた。椅子が持ち上がり、私は逆さまに吊るされた。

「あの虚栄心の強い女王の話ですか?」とストライカーが尋ねた。

椅子が地面からどんどん高く吊り上げられていくにつれて、頭に血が上るのを感じた。いい年した狼たちが私相手にこんな子供じみた遊びをしていることに、私は冷静を装い、動じないように努めた。黙って私のメイトについてもっと情報を得たかったが、今のところはただ苛立ちを覚えるだけだった。

「このカシオペアとよく似て、彼女も実に美しかった」彼はそう言うと、椅子の木製の脚に手をかけ、私をぐるぐると回転させた。椅子はブランコのように揺れてストライカーの方へ向かい、彼がそれを受け止めた。世界中がぐるぐる回っていたから、朝食を食べていなくて本当によかった。

「だが彼女は神々を侮辱し、罰として星座に変えられ、椅子に縛られたまま永遠に逆さまに吊るされることになったのさ」

「あなたたち二人を神だなんて、とても思えないわ」

どうにかそう言い放つと、ストライカーが私の座る椅子をアルファの方へと突き飛ばした。どうかロープが切れませんように、と祈るばかりだった。

「貴様の名前は?」アルファが唸った。

「私の名前はもう知っているでしょう、アルファ!」私は食ってかかった。そう言ってしまってから、自分が口にした言葉の意味に気づいた。もう手遅れだった。私は彼をアルファだと認めてしまったのだ。人間には到底感知できないはずのことを。

「何者だ、貴様は?」彼が牙を剥くように言い、私の椅子をストライカーの方へと思い切り揺り戻す。胃液がこみ上げてくる吐き気を、必死でこらえた。

「ベータ、あなたのアルファに伝えてちょうだい。私のことを知りたいのなら、ギブアンドテイクが基本よ。紳士として、私の質問にもいくつか答えるべきだって」

「どうして人間に我々の階級が分かるんだ?」ストライカーがアルファに聞こえるように尋ね、私の椅子を回転させながら再び突き飛ばした。

「人間ではないからだ。彼女はラルーだからな」彼が唸った。

「ラルーはミドルネームよ。姓はセオドラス」

「同じ一族だろうが!」彼は再び唸り、私の椅子を回転させてストライカーの方へ押しやった。頭に血が上り、その圧力で眼球が飛び出しそうだった。私の内なる狼は、メイトからの屈辱的な扱いに怒り狂っていた。

「お教えください、カシオペア女王。あなたの家系には本当にアルファの中のアルファが存在するのですか?」ストライカーが尋ねながら、また私を回転させた。視界がぼやけ、世界がぐるぐると回る。意識を失わないようにするのに必死だった。

「このパックの名前は?」どうにか尋ねた。

「ムーン・レルムへようこそ、女王陛下」アルファが言った。

「あなたが……もしかして……ローグ・キング?」驚きの色を声に滲ませて尋ねると、彼の目が驚きに一瞬見開かれるのが分かった。

「女王陛下は我が君のことをご存知でしたか」ストライカーがくすくすと笑った。

彼はうつむき、深く息を吸い込んだ。彼の香りが私の肺を満たし、内なる狼がくぅんと鳴いた。彼女は自分のメイトを求めていた。けれど、彼は私たちをぞんざいに扱い、しかもローグだった。ただのローグではない。ローグ・キング、その本人なのだ。どうして月の女神は、私を彼と番わせたのだろう?こんな野獣のような存在を、私が受け入れられるとでも思ったのだろうか?

「なぜ貴様の狼の匂いがしない?」彼が詰問した。

「彼女、犬アレルギーなの」

私がそう答えると、彼は激昂して椅子を回転させ、ストライカーの方へと思い切り突き飛ばした。ストライカーは椅子を受け止めたものの、よろけて倒れそうになった。

「その子供じみた口答えを続けるなら、膝の上に乗せて尻を叩いてやるぞ」彼が唸った。

「子供じみた遊びをしてるのはそっちの方でしょう、アルファ」私が言い返すと、ストライカーがまた私を回転させた。

頭の下の床に、ポケットナイフがカチャンと音を立てて落ちるのが聞こえた。これだけ回されたり揺さぶられたりしているうちに、ブーツから滑り落ちたのだ。ドアが開き、デルタのクリスが入ってきた。

「アルファ、彼女に何をなさっているのですか?」

彼女の姿は見えなかったが、そう尋ねる声がした。何もかもが回転し、視界は完全にぼやけていた。

彼は答えず、その小さなナイフに意識を集中させていた。彼は歩み寄ると、膝をついてそれを拾い上げた。大きな手の中でしばしそれを握りしめ、検分するように眺める。彼が立ち上がる。その顔はぼやけて視界の中で揺らいでいたが、オーラから放たれる怒りは肌で感じられた。彼は刃を弾き出すと、それを握りしめたまま立ち尽くした。

「どこでこれを盗んだ!」彼が私に向かって怒鳴った。

頭の回転が止まらず、激しい吐き気に襲われた。抗おうとしたが、もう無理だった。

「アルファ……」

そう囁くのがやっとで、私の意識は途切れた。

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