192。チャーミングで威張り強い

カチャッ――

玄関のドアが開く音で、アパートの静寂が破れる。心臓が喉元までせり上がり、どくん、と一拍脈打つのを忘れた。

エイブラハムのコロンの香りが部屋に満ちる。ドアが開くのを視界に捉えるより先に、胃のあたりで蝶が舞うような感覚に襲われる。

リモコンを素早く操作してテレビを消し、味気ない紅茶をコーヒーテーブルに置いた。

気だるげに伸びをすると、両腕が上がる。肩幅が広すぎ、ドレスのように丈の長い彼のオーバーサイズのシャツが、太ももの上でわずかにまくれ上がった。もちろん、その動きが見過ごされるはずもない。エイブラハムが喉の奥で低く唸る。欲望と誘惑が混じり合った、隠しようもないほど生々しい声だ。

彼...

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