第390章

安藤絵美は、今度こそもう助からない、と覚悟した。

その時である。不意に力強い腕が腰に回され、海淵へと沈みゆく彼女の体を引き止めた。

「絵美ちゃん、怖くない。俺が掴んでいる。もう大丈夫だ」

途切れ途切れに、原田桐也の声が鼓膜を震わせる。

原田桐也は他にも何かを叫んでいたが、海面を叩く波の咆哮にかき消され、安藤絵美には判然としない。

何か答えようと彼女が口を開いた瞬間、海水が容赦なく喉に流れ込んできた。声にならず、ただ激しく咳き込むことしかできない。視界が黒く塗り潰され、意識が遠のき、今にも気絶してしまいそうだった。

唯一感じ取れるのは、原田桐也が力強く彼女を抱きしめ、どこかへ向かっ...

ログインして続きを読む