第50章

男の手が安藤絵美の顔に触れようとしていた。

安藤絵美は即座に身をかわし、次の瞬間には脚を上げ、容赦なく男の左頬を蹴り上げた。

「あっ!」

男は悲鳴を上げ、安藤絵美に蹴られた顔が歪み、そのまま隣のテーブルに倒れ込んだ。頭がテーブルの縁に打ち付けられてから、床に転がり落ちた。

原田桐也は片手を階段の手すりにしっかりと掴み、顔は険しく沈んでいた。

だが安藤絵美の反撃を目にすると、原田桐也は鈴木雲から聞いた話を思い出した。安藤絵美は一人で安藤丘一家三人に立ち向かい、不利になるどころか、安藤丘が安藤羽言親子を連れて病院に行かざるを得ないほど追い詰めたという。

彼の薄い唇の端がわずかに上がり...

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