第62章

警察はすでに到着していた。

「安藤さん、大丈夫ですか?」

階下から戻ってきて以来、安藤絵美の様子がどうもおかしい。林田栄治はたまらず心配そうに声をかけた。

「ああ、大丈夫です。ちょっと手を洗ってきます」

絵美は淡々とそう告げると、二階にある部屋の一つへ向かい、扉を開けてバスルームへと入っていった。

蛇口を捻って水を流したものの、絵美はただ流れ落ちる水をじっと見つめるだけで、手を伸ばそうともしなかった。

「とても大丈夫には見えないがな」

原田桐也の声がすぐ傍で響いた。絵美が呆然と顔を上げると、桐也がドアの枠に寄りかかるようにして立っているのが見えた。その夜の闇のように漆黒の瞳には...

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