第72章

「彼女はK市の高藤家の末娘、高藤楓子です。しかしT市に来てからは、高藤遠恵と名を変えていました」

林田悟朗が安藤絵美の母親の正体を明かすや否や、原田桐也のいつも冷ややかで淡々とした表情が、瞬く間に崩れた。

「……高藤楓子だと? あの二十一年前に姿を消した、光紀兄さんの元婚約者、高藤楓子か?」

林田悟朗は力強く頷いた。彼は桐也様のその驚愕を痛いほど理解できた。

彼自身、初めてこの真実に触れた時は、しばらく呆然として言葉も出なかったからだ。運命というものは、あまりにも数奇で不可解だとしか言いようがない。

「二十一年前、高藤楓子は何らかの理由でT市に定住しました。偽名を使っていたた...

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