第76章

原田桐也は、安藤絵美の母親の正体を両親に明かすべきか、少なからず迷っていた。

だが、過去の出来事に触れた父が未だに怒りを露わにする様子を見て、結婚してから話せばいいだろうと判断した。

ただし、兄である原田光紀にだけは隠し立てしたくなかった。

実家で両親と夕食を共にした後、原田桐也は車を走らせ、光紀の勤務先である研究所へと向かった。

「光紀兄さん」

光紀のラボに到着した原田桐也は、実験に没頭する兄の背中を見つめ、しばしの沈黙の後にゆっくりと声をかけた。

聞き慣れた声に、原田光紀は即座に振り返り、愛しい弟の姿を認めた。

「桐也、いつ帰ってきたんだ?」

彼は相好を崩して立ち上がると...

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