第8章

安藤絵美は眉を震わせた。まさか彼がそのことをまだ覚えているとは思わなかった。視線をそらしながら言った。「あの時は私も桐也様のために怒っていただけですよ。これで帳消しですね」

彼女の本意は呼び方の件を帳消しにすることだったが、原田桐也はあえて別の意味に解釈した。

「こんな大きな手助けをしてやったんだ。帳消しにはならないだろう」

安藤絵美は一瞬固まった。彼が言っているのは、さっき彼女を庇ってくれたことだと後になって気づいた。

確かにそれは大きな恩だった。

でも彼のような地位にいる人は、安藤丘でさえ頭を下げて恐れ入るほどなのに、何が足りないというのだろう?彼女には何をお礼にすればいいのか...

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