第87章

安藤絵美は、山本芳が悪びれる様子もなく堂々としているのを見て、隣の安藤丘もそれを黙認している様子に、瞳の奥に冷ややかな光を宿した。

「権利書ひとつ持っていないくせに、この家の主面(づら)をするなんて、滑稽の極みですね」

安藤絵美は容赦なく山本芳を皮肉った。

山本芳はびくりとして、すぐに安藤丘と顔を見合わせた後、安藤絵美を指差して叫んだ。

「まさか、権利書はお前が盗ったのか?」

十年前、安藤丘は家の名義を自分に変更しようとしたが、別荘中をひっくり返しても権利書が見つからなかった。

その後、裁判所で再発行の手続きをしようとしたが、裁判所は手続きを渋り、一向に進まなかった。

やがて別...

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