第88章

安藤丘はその言葉を耳にし、瞳の奥を僅かに光らせた。

「丸山泉、まだ高藤家に仕えているのか?」

「もちろんだ。高藤家は気前がいいからな。だが、あの方が失踪して以来、大旦那様は一気に老け込んでしまわれた。気力も以前とは大違いだ。……まったく、俺には理解できんよ。高藤さんはあんなに条件の良い婚約者を放り出して、駆け落ちなんぞするとはな」

「今の暮らしは以前とは比べものにならんだろう。後悔してなきゃいいが」

安藤丘は少しの間躊躇ったが、男を人気のない隅へと引っ張っていった。

「丸山さん、実は昔、俺はT市に来て高藤さんを見つけ出したんだ」

「何だと? 高藤さんは今どこにいる? これほどの長...

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