第2章
小林美咲は疑わしげに山田さんを見つめていた。普段はいつも優しくて、小林美咲によく面倒を見てくれるこの中年女性の顔には、今日は緊張と恐れの色が浮かんでいた。
「お嬢様、若旦那がお帰りになりました。今、二階の書斎にいらっしゃいます」
山田さんは階段の方を指さした。
小林美咲の顔色が一瞬にして青ざめた。
「お嬢様がお帰りになったら書斎に来るようにとおっしゃっていました。お気をつけください」
山田さんは小林美咲に励ますような眼差しを向けてから、身を翻して立ち去った。
小林美咲は深く息を吸い込んだ。彼女は階段を見上げ、上がりたくないという気持ちでいっぱいだったが、逃げられないことも分かっていた。
小林美咲はゆっくりと階段を上がっていった。足音を立てないように気をつけながら、まるでそうすれば書斎の中の男性に自分の存在を気づかれずに済むかのように。
書斎の前に着くと、小林美咲は手を伸ばして軽くドアをノックした。中から高橋信二の声が聞こえてきた。
「入れ」
冷たい声音で、命令口調だった。
小林美咲はドアを開けて中に入ったが、入り口からあまり離れようとはしなかった。むしろ、書斎の奥の高橋信二とはかなりの距離を置いていた。
高橋信二は机の上の書類に目を通していて、小林美咲が入ってきても、ほんの少し目を上げただけだった。
「そんなに遠くに立って何をしている?俺がお前を食べるとでも思っているのか?前に来い!」
小林美咲は深呼吸をして、机の方へ歩み寄った。
高橋信二はようやく書類から目を離し、顔を上げて小林美咲の整った顔立ちを見た。
「間違いでなければ、あと数日でお前は成人するんだな?」
高橋信二が突然尋ねた。
小林美咲の両脚が少し震えた。このとき、彼女は突然振り向いて逃げ出したい衝動に駆られた。この悪魔の家から逃げ出したかった。
高橋信二はかつて、彼女が成人したら彼女のすべてを奪うと言っていた。もちろん、彼女の体も含めて。
それは小林美咲の心の中の最後の防衛線だった。
突然、高橋信二の視線が小林美咲の身なりに落ちた。洗いざらしで色あせた古い制服を着ていた。
「うちは破産でもしたのか?服一枚買えないほどに?」
高橋信二は眉をひそめて言った。
「あなたの施しなんていりません!」
小林美咲は突然顔を上げ、高橋信二の目をまっすぐ見返した。彼女の瞳には憎しみと強情さが宿っていた。
小林美咲は高橋信二の家に住み、山田さんたちの世話になっていたが、高橋信二の好意を受け入れようとはしなかった。彼女はただこの行為で抵抗し、父親が噂で言われているような人間ではないことを示したかったのだ。
高橋信二は小林美咲が自分の言葉に反抗する勇気を持ったことに怒りを覚え、その冷たい眼差しは小林美咲のわずかな勇気を一瞬で消し去った。
書斎の空気は重く沈んでいた。小林美咲が罰を受ける覚悟をしていたその時、ドアの外からノックの音が聞こえた。
「若旦那、お食事の時間です」
林執事の声が外から響き、小林美咲はほっと息をついた。少なくとも今のところ、彼女は安全だった。
夕食の時間が過ぎ、小林美咲は自分が住んでいる物置部屋に戻った。
この狭い空間の中でだけ、小林美咲は自分の魂が自由だと感じることができた。彼女の視線は狭い窓から外の景色を眺めていた。
空からは鵞鳥の羽のように真っ白な雪が舞い降りていた。この冬もまた雪が降っていた。























































