第36章

林田執事の手の中の箱には懐中時計が入っていた。デザインはどちらかと言えば古風で、誕生日プレゼントにぴったりだった。特に高橋信二の雰囲気によく合っている。

林田執事に言われて初めて、小林美咲は今日が高橋信二の誕生日だということを思い出した。彼女の記憶では、高橋信二は家で誕生日を祝ったことがないような気がする。

「若旦那様は、ご家族が亡くなられてから一度も誕生日をお祝いされていないんです。おそらく、この日は亡くなった両親のことを思い出してしまうからでしょうね」

山田さんが高橋信二の気持ちを推測すると、小林美咲はそれがもっともだと思った。

小林美咲は突然、高橋信二が少し可哀想に思えてきた。...

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