第6章

美咲は部屋のドアを開けた。中は真っ暗で、電気はついていなかった。

「誰かいますか?」美咲は小声で尋ねた。この瞬間、彼女は高橋信二が部屋にいないことを願っていた。そうすれば、すぐに立ち去ることができるから。

部屋からの返事はなかったが、わずかな明かりの中でベッドに横たわる人影が見えた気がした。

美咲は勇気を振り絞って、ベッドの人影に近づいていった。彼女の足音は軽かったが、ベッドの人影が突然体を翻し、彼女の首を掴んだ。

「私です...」

美咲は喉から絞り出すように言った。

高橋信二はようやく手を離した。

再び呼吸ができるようになった美咲が激しく咳き込む中、高橋信二の冷たい声が耳に届いた。

「こんな遅い時間に来るなんて、どういうつもりだ?さっさと出ていけ。邪魔をするな」

高橋信二のその無礼な言葉は、美咲にとって今一番聞きたかった言葉だった。

「申し訳ありません。失礼します」

美咲は素早く身を翻して高橋信二の部屋から逃げ出した。ドアが閉まった瞬間、彼女は大きく息を吐いた。

「あの怖い人と同じ部屋にいなくて済むだんて、本当にラッキーです」

美咲は満足げに物置部屋へと戻っていった。

美咲が知らなかったことだが、彼女が部屋を出た後、暗闇の中で高橋信二は独り言をしていた。

「まだ決心がつかないか。まあいい、誕生日まで待とう」

高橋信二は布団をかけ直して寝返りを打ち、今度こそ本当に目を閉じた。

翌日、美咲は楽しそうに学校へと向かった。学校への道すがら、道路の雪がすべて除雪されていることに驚いた。

ちょうどその時、田中明が車で戻ってきて、美咲と出くわした。

「お嬢様、おはようございます。若旦那様は本当にお嬢様のことを気にかけていらっしゃいますね。自転車で雪道を通るのが大変だろうと、特別に除雪を指示なさったんですよ」

田中明は美咲に挨拶しながら、からかうように言った。

「奴がそんなに優しいはずがない。あの人は私のことを憎んでいるだけ。除雪は単に自分の車が滑らないようにするためでしょう」と美咲は思った。

美咲は丁寧に田中明に挨拶を返したが、それ以上は何も言わず、自転車に乗って学校へと急いだ。

今日の美咲はとても上機嫌だった。高橋信二のことで、この良い気分を台無しにしたくなかった。

それに今日は美咲の誕生日で、親友の田中遥がどんなプレゼントをくれるのか楽しみにしていた。

何より、山田さんから信二がまた海外に行くという知らせがあったから。

彼が家にいないだけで、空気が綺麗に感じられた。

教室に着くと、すぐに田中遥からの誕生日プレゼントをもらった。とても綺麗なネックレスだった。

意外なことに、田中遥はもう一つのプレゼントを取り出した。

「これは健からのプレゼントよ。あいつったら、どうして突然留学なんかしちゃったのかしら?」田中遥はそのことについて、まだ不満げだった。

美咲は佐藤健が学校を去った理由を知っていたが、口にすることはできなかった。

前のチャプター
次のチャプター