第244章:10年経った今でも、戦う価値はある

ノーラ視点

いつもと変わらない火曜日の朝、私はクラフリン・エンタープライズのロビーを歩いていた。エイデンの小さな手をしっかりと握りしめて。キングスリー・シティに戻ってきて一ヶ月。ようやく、ここが私たちの終の棲家になるのだと、落ち着き始めていた頃だった。

受付を通り過ぎようとしたその時、言い争うような声が聞こえて足を止めた。

「申し訳ありません、ウィルソンさん。ですが、アポイントメントがなければ、面会をお取次ぎすることはできかねます」受付係はプロとしての冷静さを保っていたが、その声にはわずかな苛立ちの色が滲んでいるのが見て取れた。

受付の前に立つ女性は三十代前半といったところだろうか。絹...

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