第53章

その看護師は、浅野薇々のちょっとした頼み事を聞いただけのつもりだった。自分が悪事に加担する駒になっているとは、知る由もない。

医師は約束の時間通りに、茶室へ向かうタクシーに乗り込んだ。

大きく息を吐く。今回の証言で、相沢栞の無実を証明できるかもしれないと考えていた。

だが道半ば、人けのないカーブに差し掛かったときだった。突然、コントロールを失った大型トラックが飛び出し、医師の乗るタクシーへと真っ直ぐに突っ込んできた。

耳をつんざくブレーキ音と激しい衝突音が、山間に木霊する。

一方、茶室で長く待ち続けていた温水景介は、一向に姿を見せない老医師に嫌な予感を覚えていた。

やがて病院の救...

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