チャプター 8

デレク視点

俺は背後の扉をそっと閉めた。かすかなカチリという音は、部屋の静けさに吸い込まれていく。エレノアは俺に背を向けたまま立ち、ほっそりした指で古い本の背表紙をなぞっていた。ランプの柔らかな灯りが、わずかに振り向いた彼女の顔の輪郭を拾い、影を落とす。その影が不思議と、ここ三年同じ家で暮らしてきた女を、いままで以上に謎めいた存在にしていた。

懐かしさと諦めがないまぜになったような表情――それが、夕食の席での記憶を呼び起こした。母が無神経にも、迫る離婚の話を持ち出したとき、エレノアはナプキンを握りしめて指の関節が白くなっていた。「いつでも書類にサインできるわ」と言った声にも、ほとんど気づか...

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