第7章

六週間後の早朝、東京郊外。

早子は新しいマンションのバルコニーに立ち、澄み切った秋の空気を深く吸い込んだ。遠くには、威厳に満ちた富士山の輪郭が浮かび上がっている。柔らかな陽光が彼女の顔に降り注ぎ、その肌を淡い金色に染め上げた。

部屋の壁には、一枚の写真が飾られている。音楽院での初めてのソロリサイタルの時のものだ。写真の中の彼女は、ヴァイオリンを誇らしげに抱え、音楽への情熱と未来への期待に瞳を輝かせている。それは、誰かの妻になる前の、藤原早子自身の姿だった。

ドアのチャイムが鳴り、宅配便の配達員が小包を一つ届けてきた。早子はサインをして受け取ると、それをリビングのローテーブルに置...

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