第3話 鏡の中の見知らぬ人

水野健太がお風呂から上がり、ぱたぱたと自分の部屋へ駆け込んでいく。その背中を見送った後、私は一人、湿気の残るバスルームに立ち尽くし、鏡に映る女を、ただじっと見つめていた。

この人、誰……?

頭上のダウンライトが無慈悲に、これまで見て見ぬふりをしてきた私の欠点を、ひとつ残らず白日の下に晒していく。お腹には二人を産んだ後の柔らかな弛みが残り、蜘蛛の巣のように白い妊娠線が広がっている。かつては笑い皺と呼ばれた目尻のそれは、今ではもう消えることのない深い刻み目になった。顎のラインは、一体いつからこんなに緩んでしまったのだろう。

これに、あの人は飽き飽きしたのだろうか。だから、若くて引き締まった体を持つ小野七海を選んだのだろうか。

冷たい鏡に、そっと指先で触れた。小野七海の、贅肉ひとつない平らな腹部を思い出す。もう二度と手に入らないであろう私の体の曲線とは対照的な、彼女のタイトなアスレチックウェア姿が脳裏に焼き付いて離れない。私は三十五歳で、彼女は二十八歳。たった七歳の差が、まるで一生分もの隔たりに感じられた。

ウォークインクローゼットに入り、奥にしまい込んでいた古いスーツを引っ張り出した。マーケティング会社で働いていた頃、自分のお給料で、自分の野心のために、三ヶ月も貯金して買った幻想工房の黒いスーツだ。

スカートに足を通し、ジッパーを上げようとする。だが、それは腰骨のあたりで悲鳴を上げ、それ以上は動かなかった。ブレザーは、胸のあたりがはち切れそうだ。いつから私は、近所のイオンで買った服ばかりを着る人間になってしまったのだろう。

クローゼットの中は、ルルレモンのヨガパンツや、カジュアルな「ママ用」の服で埋め尽くされている。実用的な生活のための、実用的な服ばかり。自分が何者かであると証明してくれるような、力強く感じられる服を最後に着たのがいつだったか、もう思い出せなかった。

けれど、私がいつもこうだったわけじゃない。

宮代大学の学生だった頃、私は首席を争うほどの優秀な成績を収め、H市トップの広告代理店でのインターンシップの座を射止めた、将来有望な学生だった。一方、大輔は野心的な商学部の学生で、食費を稼ぐために三つもアルバイトを掛け持ちしていた苦学生だ。

「今は大したものをあげられないけど」

深夜の図書館での勉強会の最中、彼は私の手を握りしめて言った。

「いつか必ず、君にふさわしいものすべてをあげるって誓うよ」

「大輔、私、すべてなんていらない。あなたさえいれば、それでいいの」

ああ、なんて世間知らずで、愚かだったのだろう。

卒業後、私たちはB市の小さなアパートに引っ越した。大輔が自分のコンサルティング会社を軌道に乗せようと奮闘していた頃だ。私は広告代理店時代の人脈を使い、彼に最初のクライアントを紹介した。結婚資金の中から二百万円を彼のオフィス賃料として貸してくれるよう、私の両親を説得したのも私だ。自分の仕事が終わると毎晩、彼のプレゼン資料や事業計画書の準備を手伝った。

あの頃は、素心ブランドの服を好んで着ていた。自分の価値を理解している、自信に満ちた女性のための、プロフェッショナルな服。私はビジネス交流会で大輔の隣に立ち、淀みなく彼を見込み客に紹介していた。

T市に引っ越し、水野恵美が生まれた時、会社は私にマーケティング部長への昇進を提示してくれた。より高い給料、より大きな責任、そして増え続ける出張。

「もうそんなに頑張らなくてもいいんだよ」

生まれたばかりの娘を腕に抱きながら、大輔は優しく言った。

「俺が家族全員を支えられるくらい稼げるようになった。恵美と一緒にいてあげたいだろう?」

私は完璧な妻に、そして完璧な母になりたかった。自分の母親が、そうであったように。

今、その残酷な皮肉に思い至る。苦しい時代の大輔を支えた若く野心的な女は、彼が今「物足りない」と感じ、裏切った女と、紛れもなく同一人物なのだ。彼の子を宿したこの体も、彼の成功のために犠牲にしたキャリアも、小野七海は何も知らないのだろう。

私の価値が下がったんじゃない。大輔が、私の価値と、私が彼のために犠牲にしてきたもののすべてを、忘れてしまっただけだ。

私が小野七海にコーチの仕事を紹介してあげたのに、彼女は私の夫と寝ることで、その恩に報いた。

コン、コン、と控えめなノックの音が私の思考を遮った。恵美がドアの隙間から小さな顔を覗かせている。髪はまだシャワーで濡れていた。

「ママ? 喉が渇いて……それに、なんだか悲しそうだよ」

私は慌てて目元を乱暴に拭った。

「ううん、疲れてるだけよ。大丈夫」

彼女はぺたぺたと裸足で歩み寄ってきて、私の腰に小さな腕を回した。

「ママは世界で一番のママだよ、知ってる?」

そうだ。私の子供たちには、自己憐憫に浸る母親ではなく、自分たちの未来のために戦う母親が必要なのだ。

「愛してるわ、恵美。さあ、もうベッドに行きなさい」

その夜遅く、私はキッチンアイランドでワイングラスを片手に、スマートフォンの写真フォルダをスクロールしていた。W市への新婚旅行、恵美が生まれた時に喜びで泣いていた大輔、誰もが心から幸せそうに笑っている家族旅行の写真。

これらの瞬間は、彼にとって何の意味もなかったというのだろうか。

たかが二十八歳の女のために、十三年という歳月を彼に捨てさせ、子供たちの安定した生活を壊させるわけにはいかない。

夕食の皿を食洗機に詰め込みながら、私は木村心優に電話をかけた。彼女は大輔の顧問弁護士であり、カントリークラブで知り合った友人でもある。K市大学法学部を首席で卒業した才媛で、富裕層の離婚案件を専門としていた。今の私の選択肢を正確に理解する手助けをしてくれるとしたら、心優しかいなかった。

「心優、助けてほしいの」

彼女が電話に出ると、私は単刀直入に切り出した。

「大輔が浮気をしているわ。しかも、経済的なことで私を脅しているの。N市の法律によると、私にはどんな権利がある? 山崎法律事務所の資産に対して、何か請求権はあるのかしら」

心優は大輔の全財産状況を把握しているはずだ。彼女なら、本当の答えをくれるに違いない。

翌朝、子供たちを学校に送った後、私はトヨタの車内で心優からの折り返しを待っていた。しかし、かかってきたのは電話ではなかった。スマートフォンの画面に表示されたのは、一本の短いメッセージだった。

『美由紀さん、ごめんなさい。昨夜、水野さんと話しました。職業倫理上、この件であなたの代理人を務めることはできません』

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