第8話 旅立ちの時

大輔は一方的に電話を切った。

その日の午後、子供たちを迎えに学校へ行くと、他の母親たちの視線がまるで物理的な針のように、私の背中に突き刺さるのを感じた。彼女たちの放つ空気は、数日前とは明らかに異質なものに変わっていた。

松本美咲が、作り物めいた明るい笑顔を浮かべて近づいてくる。

「小川さん! SNSの投稿、もちろん見ましたよ! 大輔さん、山崎法律事務所でお勤めでしたっけ? 相当儲かってるんですね!」

「まあ、おかげさまで」

私はあくまで控えめに微笑んでみせた。

「でも、実際のところ」

今度は小林真由が、まるで秘密を打ち明けるかのように身を乗り出し、声を潜めた。

「...

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