第1章

「終わったら、避妊薬(ピル)を飲んでおけ」

男は姫野理緒(ひめのりお)を横抱きに抱え上げると、もはや欲望を抑え込むことをやめた。

彼は乱暴に彼女をベッドへ放り投げる。その端整で美しい顔には何の感情も浮かんでおらず、深淵のような瞳には一片の温もりさえ宿っていない。

大きな掌が彼女の衣服を引き裂く。いつもの慎ましさを捨てたその下には、なんと扇情的で艶めかしいランジェリーが隠されていた。

男の瞳が暗く沈み、呼吸が荒くなる。

効果はあったようだ――姫野理緒は心の中で密かに喜び、頬を赤らめて彼の方へ両手を回し、さらに身を寄せようとした。だが、男の次の一言が彼女の顔色を蒼白に変えた。

「そんなに飢えているのか?」

彼は軽蔑の眼差しを一瞥させ、鼻で笑った。

「薬を盛った上に、情趣下着か。月城家の妻ともあろう者が、愛人のような手管を使って自ら身を落とすとはな」

姫野理緒は聞こえないふりをして、媚びるような笑みを浮かべた。

「それで、抱くの? 抱かないの?」

「向こうからタダで身を差し出す女を、拒む理由はないだろう」

そう言い捨てると、彼は容赦なく体を割り入れた。

口づけもなければ愛撫もない。あるのはただ、欲望を処理するためだけの純粋な暴力。

身体が痛い。だが、心はもっと痛かった。

姫野理緒は月城曜(つきしろよう)の瞳の奥にある嫌悪を見ないようにして、仰け反りながら自ら彼の薄い唇に口づけ、腰に脚を絡ませて、彼をより深く受け入れた。

すべては彼女自身が求めたことだ。誰を恨むこともできない。

今日は彼女の排卵日であり、月城曜と冷戦状態になってから三ヶ月目の日でもあった。

結婚して二年、彼が彼女に触れた回数は指で数えるほどしかない。

たとえ月城曜が、彼女が酒に混ぜた媚薬を飲んでいたとしても、彼は限界まで耐えてようやく彼女に触れようとするのだ。

彼女の絡みつくようなキスが彼の情欲を煽ったのか、彼は主導権を奪い返し、舌を侵入させ、唇と歯を激しく交わらせた。

情事の最中、息遣いが重なり合う。微かなタバコの匂い、コロンの香り、そしてどこか冷ややかな気配。

彼女は月城曜の匂いを愛していた。彼という人間を愛していた。互いに敬意を払い合うだけの冷めた夫婦生活だとしても、一生添い遂げられるならそれでいいと思っていた。

しかし昨日、月城曜の母親は高慢な態度で彼女に告げたのだ。

『姫野理緒、あなたは二十四年間も姫野夏実(ひめのなつみ)の人生を奪ってきたのよ。月城家の妻という座は本来、姫野家の正真正銘の令嬢のものであるはず。本物の令嬢が戻ってきた今、偽物のあなたがどうすべきか、わざわざ教える必要はないわよね?』

どうすべきか?

当然、月城曜を、そして月城家の妻という座を、姫野夏実に返すことだ。

実際、月城曜はとっくに彼女に飽き飽きしていた。

この政略結婚は最初から間違いだったのだ。両親の形ばかりの結婚生活を見て育った彼は、商業的な婚姻の一切を拒絶しており、姫野家から無理やり押し付けられた彼女のことを、骨の髄まで憎んでいた。

今、姫野夏実が戻ってきたことは、彼にとって彼女を切り捨てるための正当な理由となるだろう。

月城家を追い出される前に、月城曜の子を身籠らなければならない。

これは彼女の執念であり、月城曜を繋ぎ止めるための唯一の切り札だった。

どれほどの時間が過ぎただろうか。狂ったような情事がようやく終わりを告げた。

姫野理緒は指一本動かせないほど疲弊していたが、月城曜は何の未練もなく身を起こし、長い脚で浴室へと向かった。

シャワーの音が響く。まるで、何か汚いものでも洗い流すかのように。

彼は……私を汚いと思っているの?

姫野理緒はガラス戸に映る長身のシルエットを呆然と見つめ、心の中に悲涼が広がっていくのを感じた。

田舎で過ごしたあの二年間は、彼女にとって最も幸せな日々だった。

当時、月城曜は稀な病を患い、視力を失い、脚も動かなくなっていた。

目は見えなかったが、彼は彼女に対して至極優しかった。

手探りで彼女の髪を梳き、無骨な指先でゆっくりと彼女の目鼻立ちをなぞりながら、何度も尋ねたものだ。

『君はどんな顔をしているんだ? きっと美しいんだろうな』

寒い冬の夜には彼女を腕の中に抱き寄せ、こう誓ってくれた。

『病気が治ったら、必ず盛大に君を娶るよ。世界で一番の幸せを君にあげる』

だが今、薬を使わなければ彼は彼女と寝ようともしない。薬を使っても、彼女はただの欲望の捌け口に過ぎないのだ。

月城曜がバスタオルを腰に巻いて出てきた。濡れた黒髪から滴る水滴が、鍛え上げられた腹筋を伝い落ち、人魚線のあたりへと消えていく。

「お義母様が言っていたわ。姫野夏実が戻ってきたって。彼女こそが本物の姫野家の令嬢で、あの時の結婚は間違いだったって。あなたが娶るべきだったのは……彼女だったって。あなたはどう思う?」

姫野理緒の声は震えるほど小さかったが、視線は彼に釘付けだった。月城曜の口から答えを聞きたかった。

月城曜はシャツを羽織り、ボタンを一つ一つ留めていく。その動作は優雅で、生まれながらの気品が漂っていたが、姫野理緒には目もくれなかった。

彼女の心は、時間とともに沈んでいく。

ようやく最後のカフスボタンを留め終えると、彼の顔にはいつもの冷淡さが戻っていた。先ほどの激しい情事などなかったかのように。

彼は冷ややかに彼女を見下ろし、氷のような声で言った。

「間違いなら、確かに正すべきだな」

それ以上は一言も発さず、ジャケットを手に取ると、背を向けて部屋を出て行った。

扉が閉まる重い音が響き、姫野理緒に残されたわずかな希望を完全に断ち切った。

心臓を鷲掴みにされたような痛みが走る。

彼は、躊躇いもなく認めたのだ。

彼女が必死の思いで、薬を使い、情趣下着まで身につけて誘惑し、ただ彼の子を宿したいと願っているその時に、彼は妻を取り替えて「間違い」を正すことばかり考えていたなんて。

姫野理緒は呆然とベッドに座り込んでいたが、やがてゆっくりと頭を下げ、未だ平らな自分の腹部に手を当てた。

瞳の奥に、狂気じみた執念の炎が揺らめく。

月城曜、私への借りは、子供一つで返してもらうわ。

***

一ヶ月後。

姫野理緒は妊娠検査薬に浮かび上がった二本の鮮やかな赤い線をじっと見つめ、張り詰めていた心がようやく地に落ちるのを感じた。

この一ヶ月、彼女は別人のようだった。

月城曜の機嫌を伺うことも、不安に怯えて待つこともやめた。

羞恥心も慎みも捨て、大胆に振る舞い、あらゆる手段を使って月城曜に絡みついた。

あまりの豹変ぶりに、最初は月城曜も苛立ち彼女を突き放したが、最後には彼女が誘惑するまでもなく、彼の方から情欲を燃やすようになった。

彼は彼女の腰を強く掴み、口では酷い言葉を吐きながらも、やるべきことは徹底的に行った。

狂乱の一ヶ月、一日たりとも欠かすことはなかった。

そして今、ついに妊娠した。これで彼のそばにいられる!

姫野理緒は喜びに満ち溢れ、このニュースを月城曜に伝えようと準備した。

別荘の門を出たところで、見慣れた黒のロールスロイスが停まるのが見えた。

ドアが開き、月城曜が降りてくる。

今日はスーツではなく、カジュアルなグレーのカシミヤニットを着ており、冷厳な輪郭が幾分和らいで見えた。

しかし、その柔らかさは彼女に向けられたものではなかった。

続いて、白いワンピースを着た女性が車から降りてきて、親しげに月城曜の腕に手を回した。

姫野夏実だ。あの、いわゆる姫野家の「本物の令嬢」。

月城曜は姫野夏実に何かを囁き、薄い唇に珍しく笑みを浮かべていた。

それは姫野理緒が一度も見たことのない、忍耐と優しさに満ちた表情だった。

彼は生まれつき冷淡なわけではなかったのだ。ただ、その優しさを彼女には一欠片も分けてくれなかっただけ。

姫野夏実の首筋には、極めて薄いキスマークがいくつも残っており、それがひどく目に刺さった。大人なら一目で何があったか分かる痕跡だ。

姫野理緒の赤い唇から、苦い笑みが漏れる。

昨夜、月城曜が帰ってこなかったのは、姫野夏実と一緒にいたからだったのか……。

今や、余計者は彼女の方だった。

もし彼らに妊娠を知られたら、間違いなくこの子を消そうとするだろう!

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