第165章

彼はただ眼を伏せ、目の前で自分の傷を手当てする女を凝視していた。

彼女の表情は、どこまでも真剣で、冷静だった。

ふと、遠い昔の記憶が蘇る。田舎で過ごしたあの頃も、彼女はこうだった。

目が不自由だった自分が、庭のガラス片でうっかり手を切ってしまった時。彼女は同じように目の前に蹲り、「自分を大切にしない」と小言を並べながら包帯を巻いてくれた。

当時の手つきは今ほど熟練していなかったし、口うるさかったけれど。

なぜだろう。あの頃の消毒液は、今ほど沁みなかった気がする。

姫野理緒はピンセットで縫合針を操り、皮膚と肉を縫い合わせていく。

その手際は軽やかで速く、まるで精密な芸術品を仕上げ...

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