第179章

姫野理緒の心臓は、見えざる手によって鷲掴みにされたかのような激痛に襲われた。呼吸さえままならない。

彼女はもはや席に座っていることすらできず、弾かれたように立ち上がると、会場中の驚愕の視線を背に、早足で出口へと向かった。

会場の外、誰もいない廊下。

理緒は冷たい壁に背を預け、荒い呼吸を繰り返すが、胸の奥で渦巻く窒息感は一向に治まらない。

それは怒りではない。悲哀だった。

母がこの世に残した最後の痕跡、理緒が宝物のように秘めてきた秘密が、あのような形で盗み出され、衆目に晒されてしまったのだ。

その時、まだ人の温もりが残るカシミヤのコートが、ふわりと彼女の肩にかけられた。

理緒が振...

ログインして続きを読む