第186章

彼女が怒気を孕んで部屋に飛び込んできても、彼は意外そうな素振りすら見せなかった。ただ静かに、テーブルの上のコーヒーカップを脇へ退けただけだ。

「バンッ!」

分厚い報告書の束が、姫野理緒の手によって紅木(マホガニー)のデスクに激しく叩きつけられる。

「これは何?」

怒りで声が微かに震えているが、彼女はどうにか理性を保っていた。

「月城曜、私を何だと思っているの? 監視が必要な犯罪者とでも?」

月城曜の視線が、散らばった紙片へと落ちる。その表情は凍りついたように変化がない。

否定も、弁解もしない。ただ沈黙して彼女を見つめているだけだ。

「何か言いなさいよ!」

その沈黙が、姫野理...

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