第3章

Y市第一病院、最上階。

月城曜はソファに深く腰掛け、特助の鈴木海斗が小声で報告する内容に耳を傾けていた。

彼は無表情のまま、目の周りを覆っていた白いガーゼを長い指で剥ぎ取った。

この五年間、眼の状態は良くなったり悪くなったりを繰り返していたが、最近は頻繁に視界が闇に閉ざされるようになっていた。

ドアが開き、鈴木海斗が恭しく告げた。「月城社長、アリス先生が到着されました」

白いスーツに身を包み、白いマスクをした女性が入ってきた。タブレット端末を手に持ち、後ろには医療機器を持った二人の助手を従えている。

背が高く華奢な体つきで、肩までの黒髪が肌の白さを際立たせている。その瞳は澄んでいるが、どこか他者を拒絶するような冷たさがあった。

月城曜の視線が彼女に注がれ、微かに眉が寄った。

これが国際的に神と崇められている眼科医アリスか?

見たところ、あまりにも若すぎる。

姫野理緒は脇目も振らず彼の向かいの席に座った。その声は冷ややかだが、どこか聞き覚えのある響きがあった。

「月城さん、カルテは拝見しました。網膜神経の進行性病変、誘因は不明。直近の失明時の具体的な状況を教えていただけますか。持続時間、前兆、そして視力が戻った後の感覚も含めて」

月城曜はすぐには答えなかった。

彼女が近づいてきた瞬間、微かな香りが鼻腔をくすぐったのだ。

清冽さの中に混じる微かな甘み――姫野理緒を思い出させる香りだった。

だが、その考えは一瞬で打ち消した。

あり得ない。

姫野理緒は姫野家に捨てられた偽物に過ぎない。どうして世界トップクラスの医学専門家に変身できるというのか?

それに、彼女の声も雰囲気も、記憶の中の卑屈で臆病な女とは別人だ。

だが、拭い去れない既視感が、彼を理不尽に苛立たせた。

月城曜は大柄な体をわずかに前へ乗り出し、目の前の女を品定めするように冷淡な口調で言った。

「アリス先生、君は若い。私の眼を任せるに足る能力があるのか確認させてもらいたい。失敗は許されないのでな」

鈴木海斗は冷や汗をかきながら傍観していた。

姫野理緒は顔を上げ、静かな視線を返した。「月城さん、私の能力をあなたに証明する必要はありません。私の予約は三年先まで埋まっています。あなたが今日ここに割り込めたのは、理事長のコネがあったからこそです。医学に百パーセントはありません。私が保証できるのは、私が執刀すれば、あなたの視力回復の確率が現在世界で最も高くなるということだけ」

彼女は視線を彼から外し、タブレットに戻した。「もし私の能力に疑いがあるなら、今すぐ帰ります。私を信用しない患者に時間を浪費するつもりはありません」

長年ビジネス界に君臨してきた月城曜は、他人に「失せろ」と言うことはあっても、言われることなどなかった。

この女は、想像以上に冷たく、傲慢だ。

だが不思議なことに、彼を眼中にも入れないその事務的な態度が、怒りを買うどころか、あの既視感をより強烈なものにしていた。

「疑っているわけではない」

月城曜は声を低くし、ソファに背を預けて主導権を取り戻そうとした。「ただ私の状況は特殊だ。治療期間中、外部からの干渉は避けたい。だから……」

「アリス先生には私の住居に移り住んで治療に当たってもらいたい。完治するまでな。報酬は君の言い値で構わない」

彼は彼女を見据え、その顔に感情の揺らぎを探した。

法外な報酬への貪欲さか、豪邸に住めることへの喜びか。しかし、そこには何もなかった。

姫野理緒はまるで自分とは無関係な話を聞いているかのように、腕時計を一瞥しただけだった。「いいでしょう。私の往診料は時間制です。一時間につき二千万、食費・宿泊費・機材・チームの費用は別途請求します。請求書は、私のアシスタントから定期的に鈴木海斗さんに送らせます」

彼女はあっさりと承諾した。どこで治療しようと同じだと言わんばかりに。彼が提示した破格の条件も、彼女にとってはありふれた数字に過ぎないようだった。

「いいだろう」月城曜は冷ややかに答えた。

「では、初回検査を始めます」

姫野理緒は立ち上がり、傍らにあった精密な眼科検査機を月城曜の目の前まで押し出した。

機器から鋭い光が放たれ、月城曜はわずかに顔を上げ、その光を正面から受けた。

姫野理緒の指先は冷たく柔らかかった。医療用手袋越しに、そっと彼のこめかみに触れる。

肌が触れ合った瞬間、月城曜の体がわずかに強張った。

手袋越しでも伝わるその繊細な感触。電流のような痺れが接触点から全身を駆け巡る。

身体の記憶は脳よりも正直だ。五年前のあの狂おしい一ヶ月を思い出させ、忘れかけていた衝動が湧き上がる。

あの女だけが……俺にこの感覚をもたらした。

姫野理緒の手が止まった。「月城さん、力を抜いて。筋肉が緊張しすぎると、眼圧データに影響が出ます」

彼女はさらに顔を近づけ、もう片方の手で彼の瞼を開こうとした。

匂いが濃くなる。月城曜は久しく感じていなかった苛立ちと、自制心の揺らぎを覚えた。

「その手」彼の声は掠れていた。「大勢の男に触れてきたのか?」

唐突で、無礼とも取れる質問だった。

隣にいた鈴木海斗は目を丸くした。普段冷徹な社長が、医者をからかっている?

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