第51章

姫野理緒の心臓が、ドサリと重く沈んだ。

彼女がマンションに駆けつけた時、野原は書斎のドアの前で、今にも泣き出しそうな顔で右往左往していた。

子供部屋のドアは固く閉ざされている。おそらく、二人の子供を怖がらせまいとしての配慮だろう。

「何度ノックしても返事がないんです。中の物音ひとつ聞こえなくて……」

野原の声は震え、涙声になっていた。

姫野理緒は救急箱を床に置くと、野原に下がるよう目配せし、自らその重厚な無垢材のドアを叩いた。

「月城曜、開けなさい。アリスよ」

彼女の声は、氷のように冷静で明晰だった。

中からの応答はない。

「あなたの神経性頭痛は急性発作を起こしているわ。す...

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