第55章

白衣を纏った人影が、彼に背を向け、壁に寄りかかっている。その肩は小刻みに震えていた。

アリスだ。

記憶の断片が脳裏で暴れ回る。

月城曜のこめかみが、ずきずきと激しく脈打った。

肌が触れ合った時の焦がれるような熱、柔らかな肢体を組み敷いた時の感触、そしてなぜか懐かしさを覚えるあの香り――。

恐ろしい事実が、思考の海に浮かび上がる。

意識が混濁していたとはいえ、彼はあろうことか主治医に対して……欲情し、手を出そうとしたのだ。

苛立ちと自己嫌悪がない交ぜになった感情が、瞬時に彼を押し流した。

彼は決して享楽的な人間ではない。相手が医師であれば尚更だ。

なぜ、これほどまでに自制を失...

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