第9章

姫野理緒の胸の奥が、きしりと痛んだ。

五年前の裏切りと、目の前の光景が重なり合い、息をするのも苦しくなる。

「月城社長、ご冗談を」

黒崎望の穏やかな声が、張り詰めた空気を破った。

彼は一歩前に出ると、姫野理緒を己の背中にかばうようにして立つ。その顔には変わらぬ柔和な笑みを浮かべているが、言葉の端々には明らかな庇護の意志が滲んでいた。

「アリス先生は私の友人です。今日彼女を連れ出したのは、他でもない月城社長、あなたの眼にとって極めて重要な取引の話をするためですよ」

言い終えると、彼は手にした木箱を軽く振ってみせた。

「もし月城社長が私の友人に何か誤解をお持ちなら、説明いたしましょ...

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