第十章

橘詩織は振り返り、結婚して五年になる夫を見つめると、自分の腕を掴むその手を一本一本、引き剥がしていった。

「今すぐ荷物を戻させれば、何もなかったことにしてやる。『西園寺の妻』の座はお前のものだ」

西園寺玲央のその脅しめいた言葉も、もはや橘詩織の心にさざ波ひとつ立てることはない。

「結構よ。欲しい人に譲ってあげて」

橘詩織は晴れやかに眉を開き、そう言い残すと、未練のかけらもなく背を向けた。

男はその場に釘付けになり、空っぽになった自分の手を見つめた。怒りが込み上げてくる。

今回、彼女がどれだけ持ちこたえられるか見ものだ。

三日後。

西園寺玲央は街を一望できる高層ビルの最上階にあ...

ログインして続きを読む