第112章

橘詩織はベッドに横たわりながら、傍らの西園寺玲央を盗み見た。

彼がこのまま病室に居座るつもりなのは明らかだった。数分間の逡巡の末、彼女はたまらず口を開く。

「西園寺玲央。本当にここにいる必要はないわ。看護師さんもいるし、自分のことくらい自分でできるもの」

薄暗い灯りの下、西園寺玲央は服を整理する手を止めず、顔も上げずに答えた。その声は平淡だが、彼特有の低い響きを帯びている。

「お爺さんの言いつけだ。退院するまで俺が直接面倒を見ろとな」

また、お爺さん。

橘詩織の胸に徒労感が広がる。このやり取りはもう何度目だろうか。西園寺玲央の答えは判で押したように、決まって「お爺さんの言いつけ」...

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