第140章

橘詩織は車の窓に頭を預けていた。耳に届くのは、エンジンの低い唸りと、窓の外を流れる風の音だけ。

数秒も経たないうちに、突如として甲高い着信音が静寂を切り裂いた。

音の出所は、西園寺玲央がセンターコンソールのくぼみに放り込んでいた携帯電話だ。

薄暗い車内では、ライトアップされた画面がやけに眩しい。そこにははっきりと――白川亜希の文字が浮かび上がっていた。

橘詩織は無意識に視線を走らせ、その三文字を認めるや、唇の端に極めて薄い皮肉の笑みを浮かべた。

彼女は再び窓の外へ顔を向け、さも面倒事を片付けるような平坦な口調で言った。

「路肩に止めてください、西園寺社長。白川さんがレストランでお...

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