第十六章

白川亜希の写真に写り込んでいた、主のいない指輪。

その存在こそが、崩れかけた結婚生活を焼き尽くす燃料となったのだ。

「橘さん。はっきり申し上げますが、この案件がどれほど困難か、ご自覚されていますか?」

アンナの口調に含まれた焦燥を感じ取り、橘詩織は眉を潜めた。業界きってのエリートである彼女にそこまで言わせ、困惑の表情を浮かべさせるのだから、難易度は推して知るべしだろう。

「それに……」

アンナは一瞬言い淀み、眼鏡のブリッジを指で押し上げると、神妙な面持ちで続けた。

「実を言いますと、この依頼を引き受けてすぐに、西園寺側の秘書から電話がありましたの」

「驚くような金額を提示されま...

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