第171章

橘詩織は、西園寺玲央の腕に添えていた指先に、思わず力を込めた。西園寺快の声が、はっきりと耳に届いたからだ。

「お祖父様、義姉さんの能力が高いことは認めますが、今回ばかりは度が過ぎています」

リビングでは、西園寺快が眉間に深い皺を寄せていた。

「僕も今しがた耳にして、急いで駆けつけた次第です。十年近く取引のあった大口の顧客数社が、何を吹き込まれたのか、急に契約を打ち切って他社に乗り換えると言い出しまして。これは会社にとって甚大な損失ですよ」

西園寺当主はすぐには口を開かなかったが、室内の空気は明らかに重く沈んだ。

西園寺快は二人の入室に気づいていないのか、あるいは気にも留めていないの...

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