第182章

橘詩織は息を殺して周囲の茂みをそっとかき分け、腰ほどの高さまで伸びた雑草を頼りに身を隠した。

それでも、恐怖と寒さで体の震えは止まらない。彼女は岩壁の窪みに体を押し込むようにして小さく丸まり、できることなら岩の隙間に同化してしまいたいと願いながら、呼吸さえも押し殺していた。

極限の恐怖の中で、時間は無限に引き伸ばされ、一秒一秒が永遠のように感じられる。

狼の遠吠えはもう聞こえない。だが、今の橘詩織は草木のざわめき一つにも怯え、心身共に崩壊寸前だった。

終わりのない恐怖と寒さに飲み込まれ、意識が遠のきかけたその時——。

ザッ……ザザッ……。

風の音とは明らかに異なる足音が、不意に近...

ログインして続きを読む