第183章

橘詩織は顔を洗う気力さえ残っていなかった。ボロボロに汚れきった服を脱ぎ捨て、適当に顔を拭うと、逃げ込むように布団の奥深くへと身を沈めた。

背中がシーツに触れた瞬間、彼女の意識は泥のような闇へと落ちていった。

だが、その眠りは決して安らかなものではなかった。

卑下た笑みを浮かべて刃物を振り下ろす誘拐犯の姿。暗い山林に響く狼の遠吠え。それらが交互にフラッシュバックし、獣の声は耳元まで迫ってくるようだった。

悪夢にうなされ、額に張り付いた髪とパジャマは冷や汗でぐっしょりと濡れている。

支離滅裂な夢の中で、無意識のうちに救いを求めていたのだろう。震える手が枕元を探り、指先がスマートフォンの...

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