第189章

橘詩織の問い返しを聞いて、西園寺玲央の顔にはこれといった表情の変化はなかった。

ただ数秒ほど独りごちるように思案に耽ると、彼はおもむろに執務机へと歩み寄った。その視線はもはや窓外の景色にはなく、彼女のデスクの上に整然と並べられた書類、傍らの観葉植物、そして背後の書棚へと、ゆっくりと這うように注がれていく。

その眼差しはあまりに直接的で、無礼とさえ言えるものだった。

橘詩織は込み上げる不快感を押し殺し、立ち上がった。その口調は先ほどよりもさらに冷ややかだった。

「西園寺社長、他に何かご指示でも?」

西園寺玲央は彼女の言葉に含まれた拒絶の響きなど意に介さず、デスクの隅に置かれたクリスタ...

ログインして続きを読む