第207章

橘詩織はスマートフォンを握りしめたまま、押し黙った。

これほどの手回しを、これほどの短期間で実現できる人間は一人しかいない。

西園寺玲央は、本当に手を引いたのだ。

「千尋、無事でよかった」

詩織は自然と笑みをこぼし、張り詰めていた心がふっと軽くなるのを感じた。

清水家の危機は去った。

それを境に、橘詩織と西園寺玲央の関係は、どこか奇妙な小康状態へと移行していった。

夜の帳が下りる頃、橘詩織はパソコンのモニターから視線を外し、指先で眉間を揉みほぐした。疲労の色は隠せない。

控えめなノックの音が響き、続いてドアが開く。

「橘社長」

三水真司だった。

彼は辞職こそしなかったも...

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