第210章

西園寺玲央はスマートフォンを握りしめたまま、次の動作に移れずにいた。

画面には、記憶に焼き付いている橘詩織の番号が表示されている。だが、通話ボタンを押す指が動かない。

葛藤と、深い罪悪感が胸に広がる。

ようやく彼女との間に、脆くとも平穏な関係を取り戻しかけていたのだ。それなのに、今こうして助けを求め、西園寺家という血塗られた泥沼に彼女を引きずり込もうとしている。狂気に走った西園寺快の前に、彼女を差し出すことになるのだ。

西園寺玲央は一度、強く瞳を閉じた。

一刻の猶予もない。祖父の危険は秒単位で増している。

選択肢はなかった。

親指が重く画面を叩く。受話器から規則的な呼び出し音が...

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