第212章

立ち上がる瞬間、橘詩織の手が『偶然』を装い、枕に触れた。

枕がわずかにずれ、その下から覗いたのは、シーツと同化しそうなほど白く、しかし微かに赤黒い染みのついたティッシュの端だった。

詩織の瞳孔が収縮し、心臓が早鐘を打つ。

彼女は表情一つ変えず、何気ない仕草で枕を元に戻し、その痕跡を隠蔽した。そして、面持ちを整えて立ち上がると、扉の前に立つ男に向かって告げる。

「お祖父様のお顔は見ました。休ませてあげましょう、外へ」

寝室を出た彼女の表情は平静そのもので、そこには微かな疲労と憂色が滲んでいるだけだった。

西園寺快は廊下の壁に背を預け、値踏みするような視線を投げてきた。

「もういい...

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