第50章

病院の廊下は、鼻をつくような消毒液の臭いで充満していた。

橘詩織が一足遅れて救急救命室の前に駆けつけたとき、手術中のランプはまだ赤く灯っていた。西園寺玲央は壁に寄りかかり、指先で一本の煙草を挟んでいる。火は点けていないが、苛立ちを紛らわせるように指で強く捻り回していた。

足音に気づいた彼が反射的に顔を上げる。橘詩織が見慣れたその彫りの深い瞳には無数の充血が走っていたが、彼女を認めた瞬間、そこには氷のような冷徹さと、相手を威圧するほどの怒りだけが残った。

「これで満足か?」

彼は歯噛みするように、低い唸り声を絞り出した。その掠れた声には、抑えきれない殺気が滲んでいる。

「祖父を病院送...

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