第52章

第3章

西園寺玲央の言葉は、あまりにも辛辣だった。ボックス席に満ちる嘲笑、そして視線に含まれる軽蔑と好奇の色が、橘詩織を飲み込もうとしていた。

白川亜希に至っては、これみよがしに手で口元を隠しているものの、その目は三日月のように細められ、眼前の光景に満足しているのは明らかだった。

橘詩織の爪が、掌に深く食い込む。その微かな痛みだけが、今にも崩れ落ちそうな彼女の体を支えていた。ここにあと一秒でも留まれば、それだけ自分の尊厳が踏みにじられることを、彼女は痛いほど理解していた。

だが、電話越しに聞こえた母のヒステリックな絶叫と、死をちらつかせた絶望的な懇願が脳裏をよぎる。彼女に退路など残さ...

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