第55章
橘詩織は、逃げるようにバッグを掴むと、這う這うの体で別荘を飛び出した。
門を一歩出た彼女の表情は、どこか夢現のようだった。
屋外の陽射しは眩しいほどだったが、心の底から湧き上がる冷徹な寒気を温めることはできなかった。
母の泣き声混じりの電話が、まだ耳の奥で反響している。一刻の猶予もない。彼女はすぐにタクシーを拾い、久しく足を踏み入れていなかった橘家の住所を告げた。
車に乗り込むと、張り詰めていた肩の力がようやく抜けた。
橘詩織は窓に頭を預け、猛スピードで後方へと流れていく街並みを、冷ややかな目で見つめる。
窓の外は都心の繁華街だ。だが脳裏をよぎるのは、氷のような冷たさと怒り、そし...
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