第57章

橘詩織はハイヒールの音を響かせながら、会社のロビーを足早に通り抜けた。だが、受付の前を過ぎるその瞬間、視線はどうしてもそこへ吸い寄せられてしまう。

案の定、磨き上げられて鏡のように反射するカウンターの上には、今日も変わらず一束の花が鎮座していた。ここ数日、送り主も学習したらしい。詩織が受け取らないと知るや、受付に預けていくようになったのだ。

詩織は足を止めた。数秒の逡巡の末、歩み寄って花を確認する。花は瑞々しく、霧吹きされたばかりの水滴を纏っている。淡い香りを漂わせるその花束には、相変わらずメッセージカードの一枚も添えられていない。

詩織が近づくと、受付のアシスタントがすぐに愛想の良い...

ログインして続きを読む