第61章

橘詩織の声は決して小さくなく、周囲の客が何事かとこちらを窺い始めていた。

太田社長は怒りのあまり全身を震わせた。

この業界で長年幅を利かせ、財力も権力も手にしてきた自分が、たかが女にこれほどの屈辱を受けるとは。

それも、衆人環視の中でだ。

「橘詩織! 俺に盾突いてタダで済むと思ってるのか?」

顔を歪めた太田社長は、歯軋りしそうな形相で彼女を睨みつけると、乱暴に携帯を取り出した。素早く番号を押し、声を潜めて凄む。

「おい、すぐ来い! 身の程知らずのクズがいる。上の部屋へ『ご案内』してやれ!」

橘詩織は眉をひそめた。どうやら手下を呼んだらしい。

重苦しい息を一つ吐き出し、その場を...

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